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上顎のインプラント第二弾 上顎洞底挙上術について

前回
上顎にインプラント埋入を行う際に、骨のボリュームが少ないときの対処法として、“上顎洞底挙上術”の話をしましたが、今回はこの上顎洞底挙上をもう少し深く掘り下げてみようと思います。

上顎洞のことを“サイナス”と呼びます、このサイナスを挙上するので、術式のことを横文字で呼ぶと“サイナスリフト”と呼びます。
漢字で書くと“上顎洞底挙上術” 横文字だと“サイナスリフト”となり同じ術式を指すものなのです。(以下:サイナスリフト)
サイナスリフトの術式は、大きく分けて、ラテラルウィンドウテクニックと呼ばれる術式と、ソケットリフト(オステオトームテクニック)といった術式の二つがあります。
さらに、最近はここに、ラテラルウィンドウとソケットリフトの中間のような方法の、クレスタルアプローチといった術式が新たに加わってきました。(表1)今回は表1の②についての話

まず今回はソケットリフト(表1:②-1)とラテラルウィンドウ(表1:②-2)の術式と適応症”
及び両者の比較について説明していきます。また次回は、比較的新しい術式である、クレスタルアプローチについて説明していきたいと思います。

ソケットリフトとラテラルウィンドウの術式と適応症
ソケットリフトは上顎骨の骨高径が5~9㎜程度の時に選択する術式となります。
上顎洞底の挙上量は3~4㎜程度で、挙上と同時に長さ6~10㎜程度のインプラント体を埋入します。
まずは、ドリルを使い、既存骨を1ミリ程度残すように、インプラント埋入窩(以下:ソケット)を形成します。(例:骨高径が5㎜の場合は、1㎜だけ骨を残すように、4㎜の深さソケットを形成します)
次にオステオトームと呼ばれる円柱状のノミのような器具を、形成したソケットに挿入し、マレット(トンカチのような医療器具)で槌打することにより残った1㎜の骨をくり抜きます。
一度、オステオトームをソケットから抜き、移植骨をソケットに詰めた状態で、再びオステオトームとマレットを使い槌打することにより、くり抜いた1㎜の骨ごと上顎洞底を3~4㎜挙上し、インプラント体を埋入します。
図1(ソケットリフトの術式)

一方ラテラルウィンドウは、上顎骨の骨高径が1~4㎜程度の時に選択される術式になります。
この方法は、さらに2種類に分類され、骨移植のみをまず行い、移植骨の定着(生着)を待ったのちにインプラント埋入を行う、stagedアプローチと、骨移植と同時にインプラント埋入を行うsimultaneousアプローチにわけられます。
どちらの方法も、骨移植を行う術式は同じですが、インプラント埋入時にインプラント体が既存骨と固定できるかが術式選択の基準になるため、上顎洞の骨高径が1㎜程度しかない場合は固定が難しくstagedアプローチが選択され、2~4㎜程度の場合は固定できる可能性が高いためsimultaneousアプローチが選択されることが多いとされます。
さて、ラテラルウィンドウの術式ですが、上顎洞側壁を窓枠のように削り(これが、ウィンドウの名前の由来)
窓枠内に残った骨壁を、粘膜ごと上顎洞内に内側に折り込み、上顎洞内に内に骨移植のスペースを確保するします。
次に、stagedアプローチの場合は確保したスペースに移植骨を転入し、傷口を縫合し手術を終了します。
一方、simultaneousアプローチの場合は、インプラント埋入を形成した後に、さらにインプラント体の埋入と骨移植を行います。
図2(この図は骨移植とインプラント体の埋入を同時に行うsimultaneousアプローチを示しています)

ソケットリフトとラテラルウィンドウの比較
ソケットリフトとラテラルウィンドウを比較すると、
手術侵襲では、ソケットリフトは、通常のインプラント埋入と同程度であるのに対し、ラテラルウィンドウは
、歯肉の切開範囲や上顎洞頬側骨壁を削合する範囲が広く、また移植骨をどこから、どの程度持ってくるかにもよりますが、手術部位が上顎洞低挙上を行っている部位と、骨の採取部位の2か所にわたる場合があり、また手術時間も長くなるため。手術侵襲がどうしても大きくなってしまうと言えます。

術式の選択基準のなる、既存骨量では、ソケットリフトが既存骨量が5㎜以上必要といった制限があるのに対し、ラテラルウィンドウは既存骨量が1㎜程度でも選択できるため適応範囲が広いといえるでしょう。
また、挙上量も、ソケットリフトが3~4㎜程度の挙上量が限界なのに対し、ラテラルウィンドウでは、頬側骨壁を開け直接上顎粘膜を剥離し挙上量をコントロールできるため、挙上量に制限がないのが特徴です。
とはいえ、挙上量が多ければ、それだけ移植骨をとってくる必要があり、手術侵襲は多くなってしまいます。
また、昔は長いインプラント体の方が良いとされていましたが、現在はインプラント体の表面性状も研究開発により品質向上し、10㎜の長さのインプラント体が入れば十分とされています。(昔は15㎜や18㎜の長さがよく使われていました)さらに8㎜のインプラント体でも10㎜のインプラント体と臨床成績が変わらないといったデータも多く報告されています。
そう考えると、既存骨5㎜で挙上量3㎜の場合、8㎜の長さのインプラント体を埋入できれば十分であり、挙上量に制限がないといったラテラルウィンドウの利点は、時代とともに少しメリットが薄まっているようにも感じます。

両者の術式とも術中の偶発症として上顎洞粘膜の穿孔(粘膜に穴が開いてしまう事)や、インプラント体の迷入(埋入するインプラント体を上顎洞内に落としてしまうこと)が発生する可能性があり、その観点で考えると。ソケットリフトは形成したソケットにオステオトームを挿入・槌打して洞底を挙上する術式の性質上、術部を直接目視して行えるわけではないため盲目的な作業となり、上顎洞粘膜の損傷を確認しにくく、損傷しても損傷部位のリカバリーがしにくいといったことが欠点といえます。
一方で、ラテラルウィンドウは、上顎洞頬側骨壁を開けて、直視しながら上顎洞粘膜を剥離するため、上顎洞粘膜の損傷穿孔があれば、確認することが可能で、またリカバリーも明視野で処置出来る事が特徴となります。
(*上顎洞粘膜は5㎜以内の損傷穿孔であれば、インプラントの成功には大きな問題はないとされています。
  一方、10㎜以上の損傷穿孔の場合、インプラントの成功にトラブルが発生する可能性が高くなります。)
上顎洞内へのインプラント体の迷入に関しても、ラテラルウィンドウであればそのまま直視下に、迷入したインプラント体を取り出すことが可能です。

ソケットリフト・ラテラルウィンドウどちらが良いというわけではありません。それぞれ利点欠点があるため、それぞれの利点欠点を理解していただき、選択していくことが重要です。
また、両者の細かい術式の流れまでの説明はなくても、それぞれの術式の簡単な流れ、利点欠点をしっかり説明してもらった上で、担当の先生とよく相談して、治療方針を選択しましょう。

次回は上顎洞低挙上の最後の術式クレスタルアプローチについて説明していきたいと思います。

*参照
医歯薬出版 Ultimate Guide IMPLANTS
医歯薬出版 日本口腔インプラント学会編 口腔インプラント治療指針2020

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